病態と治療について
脳動脈瘤という病気は脳の動脈の分岐部にできた動脈瘤というコブができた状態です。脳動脈瘤の成因は明かではありませんが、生まれつきの素因と後天的素因(高血圧や糖尿病など)により動脈瘤が発生すると考えられています。加齢に伴いその頻度は上昇します。手術方法は開頭して行うクリッピング術と、カテーテルを使用する脳血管内手術(コイル塞栓術)の大きく2方法があり、当院では脳神経外科専門医であり、かつ、脳血管内手術専門医でもある二刀流医師(脳顕微鏡手術と脳血管内手術の両方を執刀する医師)チームにより手術方法を判断しています。
clipping手術は全身麻酔下で行われます。病側の毛髪を部分的に剃毛します。皮膚切開(一般的にはこめかみ周辺を外してアプローチします。前交通動脈領域の動脈瘤においては両側前頭葉の間からアプローチすることがありその場合には両側前頭葉にタッチすることから嗅神経損傷による匂いがかげなくなる、記憶力低下や判断力低下などの高次脳機能障害が発生することがあります。)をおこない、筋層を剥離し頭蓋骨(後頭骨)を露出させ、医療用のドリルなどを用いて開頭を施行します。この際にくり抜いた骨弁は手術終了時にはめ込み、チタン製の金属で固定します。開頭終了後に手術用顕微鏡を用いて、脳を覆っている硬膜、くも膜と呼ばれる膜を切開します。脳のわずかにある隙間(くも膜下腔)を広げながら脳をできるだけ損傷せず脳深部にある動脈瘤に到達し、動脈瘤をクリップと呼ばれるチタン製のデバイスで正常血流から遮断します。以上の操作を終了し、周囲組織の状態や止血を確認した後に、硬膜の縫合、上述の通り頭蓋骨の修復を行い、頭皮下の筋肉・皮下組織・頭皮をそれぞれ縫合し手術を終了します。 開頭部位が大きくなった場合は皮膚の下の皮下出血を排出させるため1日間程度皮膚下ドレナージを留置して終了する場合もあります。
未破裂動脈瘤の場合
脳動脈瘤自体は無症状のことが多いのですが、まれに脳神経を圧迫して脳神経麻痺症状をきたすこともあります。未破裂脳動脈瘤でもっとも問題になるのは、動脈瘤の壁が破綻し出血する、つまりくも膜下出血の原因であるということです。くも膜下出血の発生は一年間で1%程度といわれていて決して破裂率は高くないものの、一端くも膜下出血を生じると約1/3の方が死亡、約1/3の方に重度の後遺症が残るといわれています。
クリッピング治療の目的は脳動脈瘤の破裂を防止することですが、我々のこれまでの経験からこの開頭術による脳動脈瘤クリッピング術の成功率は95%以上と考えています。クリッピングの際、正常血管を十分に保護出来ているかどうかの確認を術中実施するICG(インドシアニングリーン注入テスト)テストや、ドップラー検査、必要時にMEPモニタリング等を実施していますので、安全なクリッピングが困難な場合は動脈瘤の部分的なクリッピングや動脈瘤壁の補強術(動脈瘤コーティング術)にとどめる場合もあります。
破裂動脈瘤の場合
動脈瘤の壁が破綻するとくも膜下出血を起こします。くも膜下出血の発生は一年間で1%程度といわれていて決して破裂率は高くないものの、一端くも膜下出血を生じると約1/3の方が死亡、約1/3の方に重度の後遺症が残るといわれています。一度破裂した動脈瘤は24時間以内での再出血の危険が高く、再出血した場合はほとんどの方が致死的な状態に陥ってしまいます。また幸い救命に至ったとしても重度の後遺症を生じる可能性が高くなることから早期での緊急手術により再出血を予防することが重要です。くも膜下出血を生じた(破裂した)脳動脈瘤の場合の手術は未破裂の動脈瘤に比べはるかに死亡率が上昇し、また後遺症の可能性が高くなる特徴があります。
クリッピングの際、正常血管を十分に保護出来ているかどうかの確認を術中実施するICG(インドシアニングリーン注入テスト)テストや、ドップラー検査等を実施しより安全なクリッピングを実施しています。また未破裂脳動脈瘤のクリッピングとは違って脳出血合併しているような場合には術後骨を戻さず外減圧を実施したり、脳室ドレナージや脳槽ドレナージ、腰椎ドレナージなどを併用し、髄圧管理や血管攣縮防止のための髄液管理を実施することがあります。
☆執刀担当医師
佐々木庸 矢野達也 森田
顕微鏡外科手術
マイクロサージャリー
マイクロサージャリーとは、通常の手術とは異なり、顕微鏡を覗きながら手術部位を拡大観察し、特殊な器具を用いて血管、神経等の微細吻合および縫合等行い、また低侵襲にて組織の損傷も少なく安全で正確な治療を行う術式です。
脳動脈瘤
脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)とは、脳動脈の中でも脳底部を走行する直径1~6ミリ程度の血管にできた、コブの様に、あるいは、紡錘形にふくれた部分のことをいいます。
脳動脈瘤は人口の2~6%に見つかりますが、無症状の場合が多く、脳ドックなどでMRI検査を受け、初めて見つかることがほとんどです。
脳動脈瘤でもっとも問題になるのは、動脈瘤が破裂し、くも膜下出血を起こす可能性があることです。
破裂した場合、約半数は即死あるいは昏睡状態におちいり、辛うじて病院に搬入されて最善の治療を受けたとしても、病前の状態で社会復帰可能なのは、約25%にすぎません。
未破裂脳動脈瘤の治療法
未破裂脳動脈瘤の破裂を防止する治療法としては、治療方針として経過観察を行うか、手術的治療による開頭によるクリッピング術と血管内手術によるコイル塞栓術があります。
脳動脈瘤クリッピング術
脳動脈瘤治療の最も一般的な手術です。
全身麻酔をかけ、頭皮を切開し、頭蓋骨をはずし、顕微鏡を使って、脳動脈瘤に接近します。
動脈瘤に洗濯ばさみのような「クリップ」をかけることにより、脳動脈瘤に血流が入らないようにし破裂を予防します。
コイル塞栓術
患者さんへの負担は少ない治療法なので、高齢者や全身合併症のある患者さん、脳動脈瘤の部位が、開頭手術では到達しにくい場合に適応となります。
局所麻酔で細いカテーテルを脳動脈瘤の中まで誘導し、コイルを使って脳動脈瘤の内側から詰めてしまうことで、脳動脈瘤に血流が入らないようにします。